プロローグ〜決意〜
 
 
 
 ポッケ村はとある雪山の麓にある小さな村だ。
 その村に住む1人のハンターの家がある。
 その家の中で1人の少年がイスに座って本を読んでいる。時々、玄関のほうをチラチラと見ながら。
 しばらくすると…
「あぁ、寒かった」
 玄関の扉が開く音の後に、そんな声が聞こえてきた。 
 少年は玄関に向かって走り、その声の主に言った。
「お父さん、お帰り!」
 お父さん、と呼ばれた男はポッケ村のハンターであるヴァンだ。
 背が高く、引き締まった体、さらには顔も結構整ってたりする。モテるのだが本人は全然気づいていない。
 今も狩りから帰ってきたところで、大きな荷物を持っている。
「ただいま、ダン」
 ヴァンの息子であるダンは、まだまだ幼く、8歳だ。顔は少しヴァンに似ている。
 そのまま2人でリビングに入る。
 リビングは暖炉のおかげで暖かく、パチパチと音を立てながら薪が燃えている。
「とりあえず、武具置いてくる」
 そういってヴァンは他の部屋に行く。
 武器や防具、狩りに必要な道具、そしてモンスターから手に入れた素材などが保管されている部屋だ。危険な物もあるためダンには近寄らせないようにしている。
 戻ってから、
「そういえば、ミラは?」
「今、夕食作ってくれてるよー」
 ダンが答える。
 ミラは獣人族である、アイルーという種で、見た目は猫だ。しかし、二足歩行をして、道具を使い、言葉を話すことが出来る。そのため、商売をしていたり、人に仕えたりしていることが多い。
 ミラには身の周りの世話をしてもらっている。とはいっても猫より少し大きいぐらいの大きさなので全てを任せているわけではないが。 
「今度は何を狩ってきたの?」
 ダンが聞く。
リオレウス
 と、ヴァンが答える。
「どうやって狩ったの?」
 目を輝かせて聞いてくる。
 それにも答えるが、質問はまだ終らない。
 続く、続く、続く…ダンが満足するまで終らない。
 もうこれじゃ尋問だな、とヴァンは思う。
「すごーい!」
 やっと…やっとダンが満足したようで、ヴァンは、ハァと疲れた表情でため息をつく。
 そんなこんなで、話し、いや尋問が終ったところで、ちょうど料理が出てきた。
 料理の良い香りが部屋に満ちていく。
「お帰りなさいですニャ」
 料理を運んできたミラが言う。
「うん、ただいま、今日もうまそうだな」
 料理を並べるのを手伝いながらヴァンが言うと、
「ありがとうございますニャ」
 と嬉しそうに言う。
 それでヴァンが、
(かわいいなぁ…)
 なんて思っている。
 ヴァンは猫好きだ、それはもう本当に大好きだ。
 アイルーと同じ獣人族にメラルーというのがいる。アイルー同様、姿は猫で、二足歩行、道具も使うが、人の言葉は話せない、その分だけ手先が器用なのか、ハンターから物を盗んでいく。攻撃すれば盗んだものを返してくれるが、ヴァンはしない、いや出来ない。猫が好きで。しかし、狩りは命がけ、道具は全てが重要だ。そこで、ヴァンはマタタビを持っていく。そうすれば、メラルーマタタビしか狙わず、ヴァンも攻撃する必要が無いからだ。
 料理と食器が全て並べ終わったところで、2人と一匹がイスに座る。
 2人と一匹だけ、だ。
 ヴァンの妻であり、ダンの母である、エミリアはいない。
 体が弱く、病気がちだったエミリアは数年前に難病を患って死んでしまった。
 当時、ダンは泣き叫んで止まなかったが、今はもう泣かない。
(立派になったなぁ)
 ヴァンは思う。
「いただきます!」
 そういって料理を食べ始めた息子を見てやっぱりそう思う。
「あれ?お父さん食べないの?」
 ダンが聞いてくる。
 ミラも、
「どうしたんですかニャ?」
 と心配そうに見てくる。
 そこで、まだ料理に手をつけていないことに気づく。
「あぁ、食べるよ、いただきます」
 そう言って食べ始めた。
「うん、うまい」
 他愛のない話をしながら夕食を食べていた。
 狩りに行った先では、まともなものを食べられないので、さらにおいしく感じる。
 
 
 夕食も終わり、ミラが後片付けをしている。いつもなら手伝うのだが、帰ってきたばかりだから休むように言われた、というか怒られた。
 とぼとぼと、キッチンから戻り、ダンを見て思い出したように言う。
「そうそう、ダンに渡すものがある」
 ダンの頭ぐらいの大きさの箱を持ってきて手渡す。
 中には赤い鱗が入っていて、さわると少し発熱していた。
「鱗?でも暖かいよ?」
 ダンが不思議そうに見ている。
「火竜の天鱗だ」
 ヴァンが微笑みながら言う。
 火竜の天燐はリオレウスの鱗ではあるが、リオレウスの中でも10等に1頭が持っているか、持っていないか、というほど珍しい鱗だ。そのため、希少でまだまだ未知の素材である。
「運よく手に入ったからな、あげる」
「いいの?」
「ああ」
「やった!!」
 裏返してみたり、小突いてみたり、もういろいろしている。
「飛竜の鱗だから丈夫だけど、あんまり乱暴に扱うなよ」
 苦笑しながらヴァンが言う。
「うん!」
 そうこうしているうちにミラが戻ってきて、
「お風呂が沸きましたニャ」
 とヴァンに言った。
「ありがと、ああ、ミラにも渡すものがあった」
 そういって何かの植物を持ってきた
 帰る途中に見つけたマタタビだ。
「はい」
 ヴァンが渡すとミラは
マタタビ!?う、嬉しすぎるニャ」
 もう酔い始めていた。
(やっぱり、かわいいなぁ…)
 とか思いながら風呂に入りにいく。
 そうして1日が終った。
 
    
5年ほどの月日が過ぎた…
    
 
 
 
 ある日のことだ、いつものように起きて朝食を食べ後片付けをしていた。
 突然、扉をたたく音が玄関から聞こえてきた。
「ヴァンさん!!ヴァンさん!!」
村人の声も聞こえる、相当焦っているようだ。
「ダンはここにいろ!」
 返事も待たずに玄関に駆けていく。
 扉を開け聞く。
「どうしたんだ?!」
「詳しい説明は集会所で、来てください!」
「分かった」
 2人が集会所に向かう。
 集会所は文字通り、集会をする場所だが、酒場やハンターが依頼を受けられるようになっていて、集会以外の目的で使われることもよくある。
 ポッケ村は狭いためすぐに着いた。
 ヴァンが入ったのを確認し、村長が話しを始める。
「実はのぉ…」
 話しが終るとヴァンはすぐに家に帰る、狩りの準備をするためだ。
 村長の話では、ここから少し離れた場所で新種のモンスターが見つかったらしい。そのモンスターは急遽にウカムルバスと名付けられた。そして、そのウカムルバスは周囲に雪崩を起こしながらこちらに進んで来ていて、このままでは村が壊滅してしまうため、食い止めてほしいということだった。
 家に着くとダンが心配そうに聞いてくる。
「どうしたの?」
「狩りに行く」
 そう短く答えて、武具を装備しに行く。
(どの装備にするべきか…)
 険しい表情で考える。
 ウカムルバスはアカムトルムという飛竜に似ているらしい。
 アカムトルムとはヴァンは戦ったことがあった。しかし、討伐は出来なかった。ギリギリの状態で何とか撃退は出来たが。
 しかし、そんなアカムトルムに近いということは、同等あるいは、それ以上に強い可能性がある。
 悩んだ末に1つの武器を手に取った、角竜剣ターリアラートだ。
 ディアブロスモノブロスという飛竜の角から出来ている。属性は付いていないが威力は大きく、1撃1撃が重い。
 防具はウカムルバスがどんな攻撃をしてくるか分からないため、防御力を重視してグラビモスという飛竜から出来ているグラビドU一式にした。
 アカムトルムには罠が効かなかったため、罠は持っていかず閃光弾などを持っていくことにした。
 アイテムを再確認して部屋を出る。
 ダンがいた。
 ヴァンの険しい表情を見たせいか不安そうな声で聞いてくる。
「何が…あったの…?」
 ヴァンはウカムルバスのことを手短に説明する。
(ダンに心配させてしまったか…)
 反省し表情を和らげる。
「大丈夫なの?」
 その問いに微笑んで答える。
「ああ、行ってくる」
 
 
 
 2日が過ぎた。
 ダンは集会所に呼び出された。
 集会所に着き、入ると
「来たのぉ…」
 村長が話し始める。
 ダンを含め村人全員、不安げな面持ちで村長を見ている。
「ウカムルバスはヴァンのおかげで見事に撃退されたようじゃ」
 村長がそういった瞬間に歓声が上がる。
「やったあああ!」
「助かったぞおお!」
 など口々に叫んでいる。
 村人の1人が村長に尋ねる。
「それで、ヴァンさんはいつ帰ってくるんですか?村中で宴会を開きましょうよ!」
「おう、それいいな!」
「さっそく準備だ!」
 どんどん盛り上がっていく。
 ダンもまた村長に聞く。
「父さんはいつ帰ってきますか?」
 その問いに村長は悲しげな表情で、絞り出すような声で答える。
「……ヴァンは…死んだ…」
「え…?」
信じられなくてダンが聞き返す。
「…ヴァンはウカムルバスとの戦いで致命傷を受けて死んだ」
 その言葉に村人は次々と静まっていく。
「ヴァンが死んだ…?」
「そんな…」
「う…そ…」
 そんな呟きがあちこちから聞こえてくる。
「…………」
 ダンは何も言えなかった
 父さんが死んだ…?何で…?どうして…!?あんなに強かったのに…!?どうして…!!?どうして…!!?
 突然の出来事に頭が混乱する。
 涙が溢れてきた。胸に穴が開いたような感じがする。
 母を失った時も、こんな気持ちだった。悲しみが大きすぎて何も分からなくなる。
(俺…どうしたら…)
 その時、父の微笑んでいる狩りに向かっていった姿を思い出す。
(父さんは…何のために命を懸けたんだろう…)
 不思議と混乱が治まってきた。
 きっと…きっと俺やミラ、いやこの村を…村の皆を救いたかったんだ。命令とか、頼まれたから、じゃなくてこの村が好きだから…
 なら俺がすることは…
 気づけば誰もいなくなっていた。ダンに気を使ったのだろうか。
 ダンは涙を無理矢理止める。
 もう心は決まっていた。
 集会所を出てすぐ横にある訓練所に向かう。
 中に入り、訓練所の教官のもとに向かう。
 着いた。
「ダンか…どうしたのだ?」
 心配そうな顔で聞いてくる。
 ダンは言った。
「俺に訓練を受けさせてください。ハンターになります」
 そう言った。
 父さんがこの村を守ろうとしたなら、その意思を俺が継ぐ。
 この村を守ろう。
 
 決意した。
 
 
 
 
 
 

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