第2話〜飛べない鳥〜
 
 *グロ注意*
 
 
 
 
 
 ロングホーンがギアノスの首を貫き、ギアノスは絶命した。
 その死体からダンが素材を剥ぎ取る。
 ダンは今、ギアノス討伐の依頼で雪山に来ている。そして、今のが最後の1頭だった。
「よし、帰るか」
 と、剥ぎ取った素材をしまいながら言い、歩き出す。
 
 
 ポッケ村に着くと、村長へ報告に向かった。
 ダンが村長に報告する。
「ギアノス8頭、無事に狩って来ました」
「おお、ご苦労じゃったのぉ」
「いえ、もう慣れました。けど、いつまで続くんでしょうね…」
「さてのぉ…ギアノスはしつこいからのぉ…」
 この4日間、ダンは毎日ギアノスを狩りに出ている。
 なぜかというと、家畜のポポが1頭のギアノスに襲われたことがあったのだが、そのとき数人の村人でギアノスを追い払った。が、その数日後、今度は数頭で襲うようになり、村人の手では負えなくなったため、ダンに依頼が来た。依頼を受けたダンはすぐに狩ったのだが、ギアノスは減るどころか増え、今に至っている。
「いつ終るかは分からんが、とりあえず、帰って休んでおきなさい」
村長の言葉に従い、ダンは家に帰った。

 
 
 
 
 翌朝
 
 朝食などを済ませたダンは、村長の元に向かった。
 依頼があるか確かめるためだ。
 村長のところには村人が数人いた。
 それは、別段おかしくはないのだが、少し様子が変だった。
 ダンに気づいた1人が言う。
「おお、ダンか、ちょうどよかった。話を聞いてくれ」
 話しでは、今朝、薬草を採りに行っていた村人がギアノスに襲われたということだ。村人が薬草を採りに行くような場所には、普段ギアノスは居ないはずなのに、だ。
 また、別の場所ではドスギアノスも見つかった。ドスギアノスはギアノスの群れのリーダーであり、大型モンスターでもある。
「ということじゃ、親玉を倒せば、今回のこともおさまるかもしれん」
 と村長が言う。
「分かりました。行って来ます」
 ダンは返事をして、準備をしに家に戻ろうとしたが、やめた。
 振り返り、
「今回は、何か忘れたりしていませんよね」
 と聞く。
「まだ根に持っておるのかい、何も忘れていないよ」
 ダンの初陣のとき、村長はティガレックスがいることを伝え忘れていた。閃光玉は渡したが、伝えるのは忘れていたらしい。「狩りでは何が起こるかわからない」なんて言っていたのも、誤魔化すためだったらしい。結局、後日ばれたが。はっきり言って年だ。
「本当ですね。じゃ、行って来ます」
 そう言うダンに向かって
「気をつけてな」
「帰ってこいよ」
 など、集まっていた村人が、ダンに声をかける。
「はい、行って来ます」
 ダンが返事をする。
 改めて家へ帰る。
 
 
 家に帰るとミラが寄ってきて聞く。
「今日もギアノス討伐かニャ?」
「まぁ、ギアノスといえばギアノスだけど、今日はドスギアノス
 ダンが答える。
「ということは、初めて大型モンスターを狩るのニャ!」
「確かに、狩るのは初めてだなぁ」
「がんばるニャ」
「うん、ありがとう」
 ダンが準備を始める。
 防具はまだマフモフしか持っていないため選びようはない。
 武器はボーンシックル改を選んだ。ブレタから貰っていた武器の中にボーンシックルがあったのだが、素材もあったので強化した。
 他にも武器はあるが、この数日、数種類の武器を試しに使ってみたところ、双剣が得意だったため選んだ。
 本当は大剣が一番得意なのだが、強化しておらず、また、ギアノスは素早いので選ばなかった。
 一応、訓練時代に全ての武器を使ったことはあるが、実戦でも使ってみるべきだと思い、使った。結果、ランスやハンマーなどは苦手なことを改めて知った。苦手なものは、やはり苦手だった。
 アイテムポーチには砥石、回復薬を入れる。
「よし、準備完了っと」
 そう言ってダンは雪山に向かった。
 
 
 
 
 ベースキャンプに着いたので支給品箱を開ける。
 地図、応急薬、携帯食料、などをアイテムポーチに入れていく。
「ん?シビレ罠か」
 シビレ罠は、名前の通り罠で、少しの間モンスターが麻痺し、動けなくなるものだ。
 最後にシビレ罠を入れ、ドスギアノスを探しにベースキャンプから出た。
 
 
 すぐに、ドスギアノスが見つかった。
 普通のギアノスよりも一回りか二回り大きい。大きなトサカと長く鋭い爪を前、後ろ足両方に持っている。
 大型モンスタートしては最弱レベルだが、今のダンにとって強敵であることに変わりない。
 周囲にはギアノスが3頭いる。見通しがよく、戦いやすそうな場所だった。
(まだ、気づかれてないな)
 ドスギアノス達は、まだ、ダンに気づいていなかった。
(一気に…行く!)
 ダンが一番近くのドスギアノスに向かって走り出す。
 ギアノスがこちらに気づき、振り向いた時、もうダンは抜刀していた。
 ギアノスの首を狙ってボーンシックルを繰り出す。
 首を裂かれ、1頭が絶命する。
「次ッ!!」
 返り血を浴びながら、ダンが叫ぶ。もう1頭に駆け寄る。
 威嚇をしているが無視し、切りかかる。
 2頭目も首を狙い、ボーンシックルを突き刺し、払う。
 紅い血とともに、首が落ちた。
 3頭目に向かおうと、振り向く。
 その時、視界の隅にドスギアノスの影が映った。
「くっ…」
 前方に転がり、飛び掛りを回避する。
 すぐに立ち上がるが、遅かった。
 すでに3頭目がダンに向かって爪を振り下ろしていた。
 左に避けようとするが、間に合わない。
 
 ザクッ
 
 右肩を切り裂かれた。
「ッ…クソッ…!」
 納刀し、少し距離を置く。
 肩は痛むが動かせないほどではない。傷は深くないようだ。
(さすがに、3頭を一気には無理だったか…厄介だな)
 ギアノスは1頭なら大したことはないが、数頭に囲まれれば対処しきれなくなる。今はたった2頭だが、うちの1頭はドスギアノスだ。すぐには倒せない。
 考えている間にも、2頭は迫ってくる。今度は同時だ。
 一旦、考えるのをやめ、避ける。また距離を置く。
 考える。
 どうする…?まずは3頭目を仕留めるべきだけど、攻撃すれば、その隙をドスギアノスに狙われる。なら、ドスギアノスの隙を突いて、3頭目を仕留める、しかないか…。
「よし…!やるッ…!」
 2頭の攻撃を避けつつチャンスをうかがう。
 チャンスを逃さないよう、集中していく。
 動くたびに傷が痛むが、無視する。
 
(今だ…!)
 ドスギアノスは飛び掛ってきているが、3頭目は、その後ろから走って向かって来ている。
 ダンは横に逸れずにドスギアノスの下を潜り抜けるように前転する。
 そして、その勢いのまま3頭目の前に出る。
 首を狙うがはずれ、胸の部分を切り裂いてしまう。かまわず、怯んだ隙に、首をはねる。
 仕留めた。
 が、
 背中に衝撃を受け、目の前にできた血だまりのなかに、倒れこんでしまう。
(何だ?!)
 すぐ立ち上がろうと、手をつこうとしたが、動かない。
 そこで、やっと気づいた。
 上半身が、ドスギアノスの吐いた雪玉で固まっていることに。
「ヤバッ…」
 ダンが焦る。
 後ろからドスギアノスが向かってくる。
 ダンは何とか足だけで立ち上がり、走って攻撃を避ける。
 雪玉を見ると右手とボーンシックルは完全に埋まっており、動かせないが、左手だけは何とか動かせた。
 体をねじってアイテムポーチに左手を突っ込む。
(たしか、支給品に解氷剤が入っていたはず…!)
 ポーチの中を探る。
「…あれ…?」
 ない…?入れ忘れた…?!え、ちょ、マジ?!ヤバッ、ヤバイッて!!
 なんて、慌てていると、無情にも、ドスギアノスは飛び掛ってきた。
「うおあっ…!!」
 横に跳んで避けるが、バランスを崩し倒れてしまう。
 ドスギアノスが噛み付いてくる。
 ダンはそのまま転がって避ける。雪玉のせいで転がることすら難しい。
 間髪いれずに、ドスギアノスが、今度は爪で切り裂いてくる。
 また、転がって避けようとするが、動けない。
「ッ…!」
 左腕を切られたが、浅い。雪玉の一部が砕ける。
 左腕が完全に自由になり、片方だけだがボーンシックルも取れた。
 ダンがドスギアノスの腹部にボーンシックルを突き入れる。
 血が噴出し、ドスギアノスが怯んだ。
 その隙にダンは立ち上がりつつ、ボーンシックルで残った雪玉を全て砕く。完全に自由になった。
 数歩下がり、ドスギアノスと対峙する。
  
 またドスギアノスが雪玉を吐き出してくる。
 ダンはそれを避け、ドスギアノスの右側に回り込む。
 ドスギアノスが振り向く前に、跳び込み、それと同時にボーンシックルを前に突き出す。そして、左右に払う。
 痛みに悲鳴を上げ、ドスギアノスが怯む。
 ダンがボーンシックルを頭上で交差させ、かざす。鬼人化だ。
「ラストォッ!!」
 ダンが叫びながら、乱舞を繰り出す。
 切り、切り、切る。
 最後の一撃とともに、ドスギアノスは血だまりの中に沈んだ。
「ハァ…ハァ…」
 息を切らし、座り込む。
「勝った…」
 と、つぶやいた。
 
 しばらく休み立ち上がる。
 ドスギアノスの死体から素材を剥ぎ取る。
 剥ぎ終わり、しまうと、
「解氷剤忘れるとか…村長に年とか言えないな。ってか、結局シビレ罠使わなかったな。まぁいいか」
 独り言を言う。
 首や肩を回す。
「痛たたた、ああ、怪我のこと忘れてた。応急薬飲んどこう」
 応急薬を飲み終わり、
「さ、帰るか!」
 ダンは村に帰っていった。